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「プラスチックス 2013年7月号」にて掲載された衝撃試験機に関する記事です。
タイトルは「高速カメラの融合による衝撃試験の新しい応用例〈衝撃試験の高精度化で開かれる新しい可能性〉」。
「高精度の衝撃試験」「高速度の計装化情報の取り込み」それらの「データと高速度カメラとの融合」がテーマになっております。当ホームページでは全文をご紹介いたします。

掲載内容

はじめに


破壊強度対策と耳にした時、通常はその対策として構造体を厚くしたり、太くしたりすることを考える。しかし、製品に要求される項目が多様化している現代ではことは単純ではない。例えば自動車に代表される通り、単に強度を増加、維持させるだけでなく、軽量化などの複合要因に目を向ける必要がある時、単純に材料を厚くする対策では最適解は得られ無い。例としてポリカーボネイト製の防弾シールドがある。防弾シールドは厚いほど防弾性能は高い。しかし、厚すぎると重量が増え、保持している人の機動性が損なわれる。防弾性と軽量化で最適な強度が必要ということである。
経済的に成形できることからブラスチックの構造体への用途開発は急ピッチで進んでいる。周知の通りプラスチックは粘弾性体であり、さまざまな変化が非線形におきる。非線形とは、厚みを5倍にしても、強度は必ずしも5倍にならない、ということである。そうすると例えばシャルピー、アイゾッドなどのサンプル片を使用した材料試験で測定した強度は材料選別のための手段としては有用かもしれないが、製品設計に有用なのかという疑念が生じる。
さらに材料強度そのものに目を向けると別の実体が見える。一般に固体の場合、縦弾性係数Eの十分の一が理想強度となる。しかし、現実には理想強度以下で破壊される場合が圧倒的である。このことからわかるのは材料強度も破壊してみないとよくわからないということである。
つまり、材料試験での強度、構造体、アッセンブリとしての強度がそれぞれ存在し、ゆるい関連性を持って製品ごとに別個に存在していることになる。そうすると破壊強度を求めるためにはその製品をその構造体のままで破壊試験をするのが最適解となり、これ以外には推測の域をでない方法しかないことになる。
一例としてある製造メーカーでのナックルジョイントをとり上げたい。ナックルジョイントは自動車のステアリングロッドなどの連結に使われる金属部品であるが、その他の部品を保護するために一定の応力で破壊されるように設計される。この部品は構造解析などで精密に強度を計算されて制作されていたが、設計強度以下で簡単に破壊するというトラブルが発生していた。トラブルの原因は部品番号などの刻印の位置であった。刻印の位置を移動したら設計強度に達した。刻印まで含めた実際の製品で破壊試験する必要性を痛感させられる事例である。
 

写真1:ナックルジョイントの破断

衝撃試験機


製品の破壊強度試験としてイメージしやすいのは落下試験である。製品を所定の高さから10回落として、3回割れたなどという試験方法である。この試験方法の欠点は製品を改善するための指標がほぼ無いことである。ある製品強度で制作してみて、試験を繰り返しながら実験で強度を改善するしかない。製品化への時間短縮、効率化が優勢になっている現代ではなかなか難しい方法と思う。また、数値化されないと技術は継承されない。製品を落下させる代わりに、重量物を製品に対して落下させる試験方法が落錘式衝撃試験機である。
落錘式衝撃試験機はその名の通りおもりを所定の高さから落とし、その位置エネルギーを破壊エネルギーとして破壊試験をする。その際に、被試験体と接触する衝撃子に力を電気信号に変換できるロードセルを設置しその破壊挙動を把握する計装化試験機が普及している。以前にはいわゆる貫通衝撃が主だったようだが、最新式では引っ張り衝撃、圧縮衝撃、剥離衝撃などに応用されている。想像できる通り落錘式の衝撃試験は1秒以内の一瞬で完了してしまう。計装化して、そのデータを漏らさずに取り込むためには高速でのデータ処理が可能な専用の取り込みユニットが必要である。そのため計装化衝撃試験機を手がけているメーカーは世界に数社程度しかない。

多様な試験


アイゾット、シャルピーなどの振り子式衝撃試験機が切欠きなどをつけた専用のサンプル片で試験するのに対し、落錘式衝撃試験機はそのようなサンプルが作りにくい複合材、構造体、アセンブリでの試験に重点をおいて発展してきた。
衝撃試験機の要件はなんであろうか。狙った場所に必ず的中するような精密なガイド、錘の重量を変えて破壊エネルギーを変更できる柔軟性などがすぐに連想される。
圧縮衝撃試験では圧縮による衝撃に負けない筐体強度、底板強度が必要である。
計装化している場合は衝撃子の強度も問題となる。ロードセルを直接被試験体に当てるわけにはいかないので衝撃子を介することになるが、その衝撃子の強度が不足していると、そこで衝撃が減衰してしまい、被試験体の強度を直接測定できない。
試験内容に合わせて適切な衝撃子の形状を選択しやすいことも重要である。例えば自動車のダッシュボードは人間の膝などの足がぶつかって割れるときの特性が重要であり、その場合はすね形状の衝撃子が必要とされる。
つまり、試験片を破壊試験する場合と異なり、完成品、アッセンブリを破壊試験する場合は試験体ごとに試験体を受ける治具、衝撃子が専用に必要ということである。それは衝撃試験機のカスタム化が必要となるということである。試験温度を調整するための温度チャンバー、破壊エネルギー設定などで柔軟性が必要であり、衝撃子の材料選定などで衝撃試験の経験が必要とされる。英国イマテック社はこの難しい条件に合致した数少ないメーカーの一社である。
 

図:01

 
計装化され精度の高い衝撃試験による測定事例をいくつかあげたい;
第一は樹脂部品とその塗料による脆性化の影響である。
あるメーカーの自動車用部材で塗色によりクラッシュテストの壊れ方が異なるケースがあった。衝撃試験機で精密な実験をしたのが〈図:01〉である。ベースの樹脂材料が同じため、破壊までのエネルギー吸収曲線は同じである。図らずも衝撃試験機の再現性試験のようになっている。しかし、その後塗色により破壊に至る必要エネルギーが異なっているのが一目瞭然である。
第二はスポット溶接した部材間を埋める接着剤の剥離試験である。二枚の金属片の間に接着剤を封入し、固化したあとでくさび形衝撃子を正確に当てることにより剥離試験を行う。精度の高い衝撃点が前提となる試験である。
第三は円筒状のサンプルに圧縮衝撃を加えた場合である。衝撃吸収用の複合材などで衝突、温度などの影響を試験できる。この場合は二度打ち防止などの設備が必要とされた。
第四はギアが噛みこむときの強度試験である。アッセンブリを保持する機構が衝撃の減衰が無いように、ギアの噛みこむ位置への正確な打撃が必須とされた。

 

図:02

 

衝撃試験そのものは精度、計装化システムのダイナミックレンジ、バンド幅などが徐々に高度化、進化してきた。衝撃試験で測定されるのは一般にフォースと加速度であり、この測定方法は洗練されているといって良い。被試験体の変形も重要な指標であるが、衝撃試験のような高速試験では簡単に測定できなかった。イマテックではISOに準拠し初期衝撃速度と衝撃時の荷重値を元にしてサンプルの変位、正確には衝撃子の移動距離、を計算により求めることが可能である。この計算は正確に較正された荷重検出用トランスデューサとデータ解析ソフトウエアで達成している。計算式で衝撃試験時の変位を求めることについてはにわかには信じてもらえないため実証試験も行なっている。例えばEPP(Expanded PolyPropylene)の衝撃吸収試験でうず電流式のアナログ変位計と比較したデータが有る。圧縮衝撃試験のため、最大変位を正確に測定することが極めて重要であった。被試験体は一辺100mmの立方体で。衝撃速度1.11m/s、落錘重量295kgで行われた。変位計からのデータ(measured)と計算値(Calculated)との誤差は最大0.5%で、原因もはっきりしている。〈図:02〉さらにアルミの円筒(直径10mm、高さ10mm)での衝撃吸収試験では変位計にデジタル式のインダクティブエンコーダを使用し、衝撃速度6.7m/s、落錘重量7.6kgで測定が行われた。変位計からのデータと計算値との誤差は0.1%以内で、衝撃子がリバウンドするときに最大誤差が発生していた。

高速度カメラとの融合


衝撃試験とは別に、高速度撮影技術は進化を続けていた。それが最近のデジタル化により使いやすさが一気に飛躍した。具体的にはコストパフォーマンスの大きな改善、最大フレームレートの向上などに代表される技術革新がある。しかし、その他の利点も多くある。例えば、最新のCMOSセンサーは、解像度が若干落ちるかもしれないが任意の領域を毎秒10万フレームで切り取ることが可能である。また、光量感度の制約が少なくなり、高速度カメラの設置条件が緩和されている。衝撃試験との関係では撮影用の光源を衝撃の前後で消すことを自動制御できることもある。光源による被試験体の温度変化を最小限に抑えるためである。さらに、高速度カメラとして一つのモジュールになり、ユーザーはギガビットイーサネット、FireWireなどで送られてくるビデオ信号だけに集中できることも大きい。つまり、使い勝手が大きく向上したのである。
衝撃試験機の最新の応用方法ではこの高速カメラを組み合わせる手法が使用できるようになってきた。
計装化衝撃試験の信号と高速度カメラの信号を組み合わせることにより破壊エネルギーと被試験体の形状変化の関係を観察できる。これは定性的にはロードセルからの情報が正しいかの判断、衝撃子の衝撃力の減衰を測定しているかどうかの判断、また変形量の画像解析に有効である。しかし、より重要なことは新たな試験方法を提案できるということである。

 

写真2:亀裂の伝播試験

 
一例が航空機製造会社で使用されているカーボン複合材の剥離強度試験である。これはダブルカンチレバービーム試験を使用する。接着剤で接合されたカーボン複合材2層の下側の層に衝撃を与え、その破壊エネルギーを固定した上側層のフォースで測定すると同時に、亀裂の伝播速度を画像解析で求めるものである〈写真2〉。衝撃による最初の剥離の変形量も左に設置したメジャーにより画像解析できるようになっている。
衝撃試験機は油圧万能試験機などの試験方法に比較するとより変形の大きい弾性体や高温下での試験で有利となる。落錘式衝撃試験機はゴムひもなどの方法で落下速度を加速することが可能である。

 

写真3:高速引張衝撃試験

 

ゴムひもを使用して最高速度20m/secで高速引張衝撃試験をした際のPVBの変位、幅、厚みの変化を捉えたのが〈写真3〉である。高速引張衝撃は自動車事故などの際に顕著な変形なので、それを構造体で試験できる利点は大きい。データの蓄積を望みたい分野である。

 

写真4:圧縮衝撃の衝撃吸収試験

 

衝撃吸収体の衝撃吸収特性を試験するために大人の足形状の衝撃子を使用してエネルギー吸収特性を測定したのが〈写真4〉である。

おわりに


いままで高速カメラを使用した衝撃試験のアプリケーションは、高価であったこともあり徐々にしか浸透していないが、今後カメラの値段が下がるに従ってより広いアプリケーションに応用されていくと思われる。イマテック衝撃試験機の計装化システムC3008は測定チャンネル数最大16チャンネルで、最高0.33μ秒の高速なデータサンプリングが可能。(最大1秒間に3,000,000データポイント)他社製衝撃試験機、油圧万能試験機に後付けしデータ解析、高速ビデオ解析が可能である。データの取り込みロスを無くし、可視化による試験の効率化、最大化に簡単に取り組める柔軟性がある。
イマテックでは最大衝撃荷重が10万ジュールの衝撃試験機をラインアップしている。パイプライン用鋼材の破壊試験であるAPI DWTTではすでに世界標準機である。また、航空機、自動車に使用する複合材の難しい破壊試験機のメーカーとして著名であるため、大型の構造品、高エネルギーを必要とするアプリケーション専業に思われがちである。しかし、その衝撃精度、高速度カメラとの融合技術はプラスチック、フィルムなどの分野でも新しい知見を次々に提供している。もともと脆性破壊の危険性を試験するDWTT試験であったが、計装化衝撃試験機を使用することにより単純な品質検査から研究開発に大きくシフトした。そのため、この40年間で材料工学が飛躍的に進み、パイプラインの鋼材はX52スチールから、高張力鋼管X100スチールへ、更にはX120スチールへと製造プロセスの熱力学特性を改善できた。当然、プラスチック、ゴムでも材料工学の進展が期待できる。破壊試験機を有効利用することにより知見を広め、材料工学が発展するように、そして痛ましい事故が起きないように願うものである。

おわりに


いままで高速カメラを使用した衝撃試験のアプリケーションは、高価であったこともあり徐々にしか浸透していないが、今後カメラの値段が下がるに従ってより広いアプリケーションに応用されていくと思われる。イマテック衝撃試験機の計装化システムC3008は測定チャンネル数最大16チャンネルで、最高0.33μ秒の高速なデータサンプリングが可能。(最大1秒間に3,000,000データポイント)他社製衝撃試験機、油圧万能試験機に後付けしデータ解析、高速ビデオ解析が可能である。データの取り込みロスを無くし、可視化による試験の効率化、最大化に簡単に取り組める柔軟性がある。
イマテックでは最大衝撃荷重が10万ジュールの衝撃試験機をラインアップしている。パイプライン用鋼材の破壊試験であるAPI DWTTではすでに世界標準機である。また、航空機、自動車に使用する複合材の難しい破壊試験機のメーカーとして著名であるため、大型の構造品、高エネルギーを必要とするアプリケーション専業に思われがちである。しかし、その衝撃精度、高速度カメラとの融合技術はプラスチック、フィルムなどの分野でも新しい知見を次々に提供している。もともと脆性破壊の危険性を試験するDWTT試験であったが、計装化衝撃試験機を使用することにより単純な品質検査から研究開発に大きくシフトした。そのため、この40年間で材料工学が飛躍的に進み、パイプラインの鋼材はX52スチールから、高張力鋼管X100スチールへ、更にはX120スチールへと製造プロセスの熱力学特性を改善できた。当然、プラスチック、ゴムでも材料工学の進展が期待できる。破壊試験機を有効利用することにより知見を広め、材料工学が発展するように、そして痛ましい事故が起きないように願うものである。